それまでの私にとっては、最大の転換期であった。 トンボを始めとする、昆虫類、ザリガニやら、蛙を 平気で触れる友達を横目で見ながら、 「よう、あんなん触れるなぁ~」と心の中でつぶやいていた私。 「ウリウリ~~!」なんて、虫を目の前に向けられ、 半泣きになっていた。 小学校の高学年にもなって、そんなであった…情けない…
そんな頃、学校では、いろんな委員に任命される時期がやってきた。 生徒会長を始めとし、放送委員、運動委員、図書委員他。 推薦や、立候補で決めるのである。
さんざん弱っちぃ私やったのに、いつも誰かわからんが、 選挙の時、私なんかを推薦する人が、必ず1~2人いた。 誰かは不明。 この1~2人って微妙である。 いっその事、0の方が有り難いと思った事もある。
黒板に1票ずつ書いていく時に、名前が読み上げられるが、 私の名前になると、めずらしいので、妙な歓声が上がるのだ。 …なんで???という?マークいっぱいになる私。 一瞬、ドキドキしたりして、私の中では、かなり楽しめたが。 結果が出た後、妙~な気持ちになるのである。 ウチは、賑やかしかぁと…
そんなある日、飼育委員に選ばれてしまった。 委員とは名ばかりで、学校で飼っている動物のお世話をする係 のようなものである。
その頃、裏庭で鶏を飼っていた。 主なお仕事は、その鶏のお世話である。 学校の近所の八百屋さんで、人間様が食べないキャベツや 白菜の外側をもらい、とうもろこし等の入ったエサと混ぜてあげる。 エサをあげるだけではない。 小屋から鶏を放し、遊ばせている間に、小屋の掃除をするという 委員の中では、結構過酷なお仕事であった。 小屋の中が、非常に臭かったのだ。
心の中では、放送委員がやりたい~図書委員もいいなぁ~ と夢を描いていたのだが、残念ながら、 そんな役目は回ってこなかった。
この委員になって、一番困ったのは、鶏を抱かなきゃいけないのだ。 小屋から出す時は、入り口の戸を開けると、一斉に 「やった、やった~!!外や~~!ヒャッホ~~!」 とばかりに、出ていってくれるので、手をかける事はない。 しかし、掃除した後、鶏を小屋に戻さなきゃいけない。
最初、怖くて、抱けなかったのだが、私1人が抱けないと、 「よしみちゃん、1人だけズルイわ~~」 という事になる。ズルイんやなくて、怖いのだが。 そう言われない為に、頑張って抱いてみた。
生あたたかい… その瞬間、生き物を抱いてる実感を味わった。 生きてるんや… 当たり前なのだが。
初めて抱いたので、力が強すぎて、鶏が「コ、コ、コケッ!」と怒り、 バタバタ私の手を振り払った。 そっか…ごめん… 相当数いるので、いろんな鶏を抱いてみて、感覚を掴んだ。 確か、毎日ではなかったと思う。 3日に1度位の割合で、鶏を追いかけていた。
生き物を扱っていると実感した時点から、 エサをあげないと、死んでしまう。 ちゃんと世話してあげようって思ったのだ。
飼育委員は、夏休みも返上なのだった。 当番を決めて、小屋に様子を伺いに行く。 暑い中、八百屋さんへクズ野菜をもらい、エサと混ぜて、 小屋の掃除をして、エサをあげながら、鶏を小屋に戻す。 たまに、産みたてのホカホカの卵を触る事もでき、 鶏のエサの食べっぷりを見ると、「よしよし、可愛いのぉ~」 なんて気分になるから不思議である。
この鶏との出逢いのお陰で、私は勇気をもらい、 命の大切さをちょっと学んだのであった。
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